季節は移ろい、信州の遅い春がやってきた。
4月半ば過ぎにサクラが咲き始め、モモやナシの花が後を追い、4月下旬にはリンゴの花が満開になる。本コラム(第4回)で紹介した麦畑では、厳冬を越した小麦がだいぶ生長した。照射される太陽エネルギーをむさぼり食うかのように植物たちは天に向かって背伸びをし、花を咲かせ、葉を広げていく。川中島平の春の風景はとてもあでやかだ。
しかし、「季節の移ろいなど、私には関係ありません」と、あたかも天に向かって威張るかのように突っ立っているものがある。携帯電話の中継基地局(電波塔)だ。あちらこちらにニョキニョキと、ある日突然、建設されていく。ぼくらの麦畑の近くにも2基ある(その1基が写真のもの、手前は小麦)。
その姿は風景に対してゴーマンだ。ところが、もっと深刻な問題が中継基地局にあることをつい最近知った。
今年2月に開催された長野県有機農業研究会の大会で、ある女性が数枚のカラーコピーを持って何やら説明していた。そのコピーを覗き込んで、ぼくは愕然とした。そこに写っているのは多数の奇形植物だった。
茎が肥大化したタンポポや2段咲きのシロツメクサ(この右の2枚の写真をお借りしてここに掲載した)などだ。いったい原因は何なのだろうか?
植物の異変は、彼女の家の周りで起こっているという。近くに中継基地局ができた5年前から奇形植物が出現するようになった。それだけはない。同じころから体調に変化が生じ、頭を締め付けられるような経験や激しい動悸が繰り返し襲ってくる。
自分だけが特別なのか疑問をもち、近所でアンケートを取ったところ、同じ症状を訴える人が4人もいた。
また、やはり近くに中継基地局が建設された友人宅の近辺でも、同じ現象が起きていたと知る。中継基地局が建設されたこと以外に環境の変化を何も思いあたらなかった彼女は、異変の原因は中継基地局にあるのでないか、そう考えざるを得なかった。
話を聞いて、ぼくは自分が編集人をしている雑誌「たぁくらたぁ」でこの問題を取り上げようかと思った。しかし、彼女を疑うわけではないが、新聞やテレビではこんな問題を目にしたことはない。雑誌に掲載するからにはより強い確証を得たいと考えた。
また、「たぁくらたぁ」の連絡先はぼくの携帯電話の番号を載せている。もし中継基地局に問題があるならば、「ケータイを使っているあなたはどう対応するのですか?」と問われたとき、何と返答したらいいのかが分からなかった。しかし、「悩むより、歩け」だ。ともあれインターネットで調べたり、参考資料に当たることにした。そして、国内や海外での電磁波問題の事例を知り、雑誌で取り上げることを決めた。
そうやって調べた事例のなかで、一つだけ紹介しよう。電磁波問題市民研究会(事務局長・大久保貞利)のホームページから引用する。
英国政府は「携帯電話問題独立専門家委員会」を設置してすでに2000年に調査報告を出しており、昨年には最新情報による更新版を発表した。その委員会の最高責任者のウィリアム・スチュワート卿は、携帯電話そのものの危険性にも触れて次のようなコメントを述べている。
「携帯電話の健康への悪影響は何年も携帯電話を人々が使ったころにあらわれるであろう。それが本当のところだ。まだ確信に至るに必要な証拠は集まっていない。しかし、不確実(灰色)な面がある以上、私たちは携帯電話技術(携帯本体と中継基地局)に対して予防方策を引き続きとるよう勧告する」
なお、英国以外にもヨーロッパ諸国では、政府機関が携帯電話の影響調査などを行い、その危険性をデータとして蓄積している。そして、「16歳以下の子供には携帯電話を使わせないように」などといった警告の発信はもはや一般化している。
これは「疑わしきは回避する」という「予防原則」の立場である。因果関係の科学的な証明にかなりの時間を要する環境問題については、このような立場が不可欠だ。中継基地局周辺での奇形植物や健康被害の多発については、原因を電磁波に特定する証拠が得られているわけではない。しかし、事実として異変は起きている。日本においては、足尾銅山鉱毒事件や水俣病から始まり、最近のダイオキシンやアスベストによる被害まで、対策はいつも後手後手に回ってきた。「予防原則」をおろそかにしてきたからだといえよう。
ケータイがいまのニッポン経済を牽引していることは間違いなさそうだ。テレビの地上デジタル放送を見られる第3世代なるもの(電磁波はいっそう強くなる)が主流になっていきそうな勢いもある。大手携帯電話会社を買収した某社長は「もっと便利で、もっと楽しいケータイにしたい」とテレビ番組で語っていた。いったいいつになったら「これで十分」と言えるのだろう。「便利さ」と「いのち」の取り引きをニッポンはまだ続けるというのか。
最後に、中継基地局の電磁波にかかわる危険性を少しでも回避するための、携帯電話保持者の心得を書いておこう。「たぁくらたぁ」で扱った中継基地局周辺の異変紹介記事に、編集部としてぼくが添えた小コラムから一部を引用する。
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基地局からは常に電磁波が出ているが一定ではなく、エリア内の交信量と関連するという。つまり、交信量が増えれば電磁波も強まるわけだ。また、通話をしなくても、携帯電話の電源がON状態であれば電話と基地局の間で位置確認の交信を数秒に1回する。
そこで対策。夜は電源を切る。公共の場でも電源を切る。電話は1回3分以内、インターバルは40分以上おく。「携帯電話は緊急電話、長電話したければ固定電話」(フランス政府勧告)。どれも電話機本体の電磁波から自分の身を守ることにもつながる。さらに、子どもには持たせない。新たな基地局が学校や住宅地近くに建設されそうなときは「もってのほか」と意思を表す、などなど
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遅ればせながら、ぼくも実践をはじめた。 |