ふつう
ある町にごく普通の男がいた。
その町は都会でもなく、田舎でもなく、ごく普通の町だった。
その男はそこで育ち働いていた。
仕事ぶりはというと優秀なわけでもなく、
テキパキ仕事をこなせるわけでもなく、
これといって取り柄があるわけでもないが、
それこそふつうの仕事振りだった。
この男はあるとき結婚した。
相手の女性もごく普通で
特に綺麗なわけでもなく、
きりょうが特別よいわけでもなかった。
一つだけいえるのは、
ごく普通に女性らしかった。
当然のように、この二人には子供ができた。
男の子と女の子で、
二人とも成績が良いわけでもなく、
スポーツ万能というわけでもなかったが、
病気することもなく健康だった。
そのことに、みな満足していた。
この男は、年相応に年老いた。
気づいてみると、孫までできていた。
ふりかえると、そこには生きてきた足跡がたしかにあった。
この男にも、普通に死がおとずれた。
最後にこの男はなにかをつぶやいた。
聞き取れなかったが、いつもの朝と同じ顔だった。
この詩は10年前に書いたものなのだが、最後の一行がしっくりこなくて書き直してみた。
当時の住まいは自宅兼オフィースのボロマンションの一室で、朝起きたら隣室の仕事場に行き寝ぼけながらパソコンのスイッチを入れ、仕事が終わると電源を落として隣の部屋にもどる生活だった。
あまり言えた話ではないが、そこはインターネット接続のアクセスポイントも兼ねていて、電気を消すと暗い部屋の中で何十台ものモデムがしきりに点滅していた。
その先に誰かがつないでいると思うと、妙に幻想的でポツリとそこで酒を飲んでいた。
また、毎週金曜の夜は、当時運営していたパソコン通信ネットの自由参加のオフ会をそこで行い、それぞれがお酒や食べ物を持ち寄った。多いときには20人ほど詰めかけてししまい、狭い部屋でぎゅうぎゅうになりながらワイワイとやっていた。
この誰が来るか分からない不思議なオフ会は、途切れることなく2年あまりつづいた。いろんな出会いがそれぞれに起こり、わかれもあったようだった。
当時、私は離婚したばかりで子供とも離れ一人暮らしだった。
毎日夜は長く、自分を見つめる時間がたっぷりあった。
退職,離婚,独立,使命,あらゆる出会い、崩壊と再生を繰り返したこの時期に自分に向かって投げかけたのが上の詩だった。
10年経ってやっと最後が書けた。