株式会社ビアス社長ブログの記事、「やつ頭の皮をむきながら」です。

2004年11月24日

やつ頭の皮をむきながら

カテゴリー:雑文

ぽかぽかした日差しの中、イスをふたつ並べて妻を呼びます。
「ここに座りませんか?」
「なに?」
様子を伺いながら後ずさりする妻に、裏の畑で朝掘ってきたやつ頭(サトイモで茎が食べれる品種)の茎を積み上げ見せてあげます。
「これ何?」
「一緒にやろう」
「はあ?」
「皮むいて吊るすんだよ、ホラここに座って」
やつ頭の茎を皮をむいてカラカラになるまで干し、それを水でもどして油でいためて砂糖としょうゆで味付けして食べると「こんなものが!?」と思うぐらいうまいのです。これは妻がKばあさんにじきじきに教わってきたことですが、正直いって面倒だし、あまり気の進む作業ではありません。
庭に椅子とテーブルを出され、仕方ないやるかという感じで妻は皮むきを始ます。
「この前の日曜日、畑で作業していたら、散歩途中のMじいさんがきて、麦はどこに植えるんかい?と言ってきたんだけど。麦を植えることを話したの?」
「ああ、話した話した。Sばあさんに話した」
妻は、茎の不自然な位置をつまみながら皮をむきます。
「Sばあさんだあ?Mじいさんに話したのか?」
私は茎の先端からすっと皮をむきます。私がやると綺麗にはがれます。
「Mじいさん?さあねえ」
「Mじいさんに話たのかって聞いてるんだよ」
「ええっとねえ、Kばあさんに話したなあ」
「だからMじいさんに話したのか?」
「いいやあ、話さないよ」
「おい!お前のやり方おかしいぞ、かせ!」
「いいんだよ、うるさいな」
「やり方もおかしいし、人の話もちゃんと聞いとけ。なんでMじいさんが知ってるんだよ」
「だからあ、Kばあさんが話したんじゃないの?」
どうでもいいことを怒鳴りあいながら、それでも妻は席をたたずに作業を続けています。それは暖かい日差しのせいなのか、隣あって作業する距離の近さのせいなのか?平日あまり話もする時間のない私達が、久しぶりにおしゃべりをしています。
「なんか伝わるの早いね」
機嫌を直したみたいに妻が言いました。
そう、この土地に越してきて新鮮というか都会にはなかった感覚を感じます。それはうわさの伝達するリアルタイムな空気とでもいうのでしょうか・・・。
隣に誰が住んでいるかわからない都会と違い、ここではどらねこがお魚を加えて逃げたとか狐が出たとか、さまざまな情報が口コミですごい速さで伝達されていきます。ちなみに我が家にまつわるうわさですが、農家でもない人間が畑で土を耕しているので、私にとっては一番楽しいことなのに、土日まで働いて大変な働き者だと口々に語り継がれているようです。
さて、不器用に皮をむきながら妻はKばあさんのところから仕入れた新しいうわさを教えてくれました。
「近所のNさんに始めて会ったって言ったら、Nさんは綺麗だろうってKばあさんが言うんだよ。それで私はそうですかねえって返事したんだけどね」
「綺麗じゃないのか?」
「Nさんは目とかぱっちりしてて若いだろうってKばあさんは一生懸命言うんだけどね」
「そうじゃないのか?」私はNさんに会ったことがないので興味津々です。
「いや、私にはわかんないんだけどね」
「なんでだ?若くないのか?」
「70才はとっくに過ぎてるよ」
「ええ、まいったねえ、そりゃ、返事にも困るよね」
「奥さんはあんなに綺麗なのに旦那さんが浮気したんだって、奥さんがあんなに綺麗なのにってKばあさんが何度も言うんだよ」
「何十年前の話だよ?」
「いや、知らないけど」
暖かい日差しの中、どうでもいい話をしながら皮をむいていきます。
これをむくのは大変だぞと思った山のようにあったイモの茎はどんどんなくなっていきました。
(昔の共同作業もこうだったのか)
私は高くて青い空を見上げました。
季節が巡る度に繰り返されてきたであろう農作業の光景にトリップし、おしゃべりする笑い声が、赤黄に色づいた木々の葉を揺らす風の中で響き合ったような気がしました。

投稿者 Hiromi : 12:57 | コメント (0)
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